それはきっと初恋の色

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学生時代の淡い色の恋
それはまるでパレットに滲む色彩のように鮮やかに

そしてこの色鉛筆のように
微妙に違う様々な色で心の揺らぎが表現されるようで

かっこいいなと思う男子は何人か居た
ただそう思うだけで
その男子とどうなりたいとかそんな感情を持つことは無くて
せいぜい「好意」止まりだったように思う

初めて恋心を抱いたその彼は
小学5年の時に同じクラスになって意識し始めた

色黒でスポーツが出来て
明るくて笑顔が可愛くて
誰とでも仲良く会話が出来て

悔しいほどにわたしと正反対

色白でスポーツが不得意で
笑うのが苦手で
人付き合いはもっと苦手で
男子と話すのはそれに輪をかけて苦手で
自分のことが嫌いだった

ただ絵を描くのだけは好きで
漫画家になりたいなどと
恋よりも淡い幻想を抱いていて
ちょうど5年生の時に漫画雑誌に投稿し始めた

それを知ってか知らずか学級新聞に載せる4コマの漫画を描いてくれと先生に頼まれ
たかだか学級新聞なのにトーンを使って奥行きのある背景まで描いていた

凄い!上手い!漫画家になれるよ!

絵だけはみんなに誉めてもらえた

『まふゆさん、絵、上手だよね!良いな~』

机で絵を描いていると
ニコニコしながら机の脇に寄ってきた彼が
私の手元に目線を落とす

「あ、ありがとう…」

緊張で気の利いた返しも出来ない
心臓がおかしくなりそう
でも

嬉しい

『凄い!これ色鉛筆?小さ!何色あるの?』

「えーと…一つが25色だから…二つで50色くらい?かな」

『すごい!ねー。今度の理科の授業で使いたいなー。貸して?』

「えっ」

『ダメ?』

「い、いいけど…」

『やった!絵が上手い人の使うと上手く塗れる気がするー』

「いやいや…」

絵だけは
みんながわたしを認めてくれるツール

誰かと繋がれる、細い糸のような
儚くもでも確実に其処に在る

わたしの居場所はきっと
この紙切れの上

『オイ。何だその目は』

「……別に」

『喧嘩売ってんのか?あぁ?』

「……」

顔が近い
この男だけは誰よりも苦手。嫌い。
顔を合わせるといつも睨みながら絡んできて
しかも誰か必ず舎弟みたいに周りに居て

『お前生意気でムカつくんだよ。泣けよ。ほら』

「………」

周りはただにやけてるだけだったり
悪口で応戦してきたり

私も言い返したりもしたけども
人数には敵わなくて
最後はただ睨むしか出来なくて

クラスの男子の半分に囲まれて
目の前で筆箱が踏まれても
何も言えなくて
ただ睨むしか出来なくて

良かった

彼がここに居なくて
こんな無様な姿を見られなくて
本当に良かった

この男は
好意があるゆえにいじめているわけではない
本気で憎いという目で私を見ている
私はこんな男に敗けない

…あんたなんかに
私の涙を見せるか

『まふゆさん!色鉛筆貸して!』

理科室に移動している時に彼が話しかけてきた

「うん。じゃ…こっちで良い?使えそうな色入れといたから」

『良いよ!ありがと!』

彼と話せるのが嬉しい
ほんの少しでも関われる事が嬉しい
嫌な事があっても
それが吹き飛んでしまうほどに
私は彼の事が

『まふゆさん!色鉛筆ありがとう!』

「短くて使いにくくなかった?」

『全然大丈夫!それ何!?すげー!ってみんなに羨ましがられた!笑』

「ははは」

『…また次の理科の時、貸してもらえる?』

「いいよー」

『よし!じゃ、またね!』

彼が使った色鉛筆
人気者な彼が
私の事を…なんて大層な事は考えられない
でもただひとつの事実が嬉しい
嫌な人からわざわざ色鉛筆なんて借りはしない

私は彼からは嫌われては居ない

その事実だけがただ
私の頬を緩ませた

『まふゆさーん!』

「あ、はい!」

理科室に向かう階段の踊り場で
彼から名前を呼ばれた私は
催促される前に色鉛筆を差し出した

『お、ありがとう♪借りるね!』

少しだけ、はにかんだような笑顔を浮かべて
階段を颯爽と駆け登る

身軽だなぁ…
猿みたい

理科の授業中ふと
右斜め前の方向の机で勉強する彼に目をやると

私の小さな色鉛筆を握って真剣な眼差しで
植物の観察結果の紙に色を塗っている

前の席の男子が「いーなその色鉛筆。貸して!」と声を掛けている

彼は首を横に振りながら笑っていた

これ以上好きになったら
きっと私は苦しくなるのに
辛くなるのに
ただ少し絵が描けて
ただ少し珍しくて色が多い色鉛筆を持っているだけの女が
彼の周りに居るような
可愛くて明るくて愛嬌が溢れる女子に
敵うわけはないのに

それでもやっぱり
たった一瞬私にだけ向けられる言葉が
この笑顔が
嬉しくて嬉しくて

色鉛筆を理科の授業で使うのはあと1回。
あと1回だけど

これから少しずつ少しずつ
仲良くなれたら…

『おい。』

「え、なに…?」

『理科の時○○が使ってる色鉛筆って、アレもしかしてお前の?』

「そうだけど…」

『ふーーん…良いねアレ。俺にも貸してよ』

「え、でもあれは…」

『あれー?○○には貸せて俺には貸せないの?なに、アイツのこと好きなの?』

「違う…!」

この男には
この男にだけはバレちゃダメだ

『じゃー次は俺に貸してよ』

「でも…」

『あーやっぱりね~!ふーん』

「違……貸すから!」

『じゃ次は俺な。ヨロシクー』

「……」

なんで
なんでこの男は
わたしのたった一つの繋がりを

爽やかな水色を
ほのかに彩る桃色を
真っ黒に塗り潰して

そんなに私の事が憎いの……

『あ!いた!まふゆさん!』

「あ…」

『今日も貸してくれる?』

「…ごめん。今日は…」

『ダメなの?』

「●●君に、貸してって言われて…」

『えっ…』

「ごめんね…」

『いや、うん!大丈夫!わかったー』

本当はアイツになんて貸したくなかった!○○君に貸したかったんだよ!
なんて言えるわけもなくて

私の横を通りすぎ
階段を駆け上がる後ろ姿が少しだけ残念そうに見えて

どんなに暴言を吐かれても
どんなに睨まれてもすごまれても

揺らがなかった視界が揺れる
景色の色が滲む

たった一つの繋がりが
糸が切れたように

彼と話す事は殆ど無くなった

やっぱり儚かった
けども確実に其処に在った

ずっと引き出しの中に眠ってる

わたしの恋の色

 

まふゆ
さん
地域:千葉県
職業:受付嬢
身長:160cm
体型:普通
血液型:秘密
星座:蠍座

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